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絵と音楽と

 学生時代から絵と音楽の両方にかかわっている私の中に、最近までずっと存在し続けていた疑問があります。とことん突き詰めたわけではない漠然とした疑問だったんですけど。

 音楽の持つ抽象的な透明感と上昇志向。それに対して、自身の絵画の具体的すぎる不透明感と時として人間の暗い部分へと沈み込んでゆくテーマの重さ。このギャップと、同化できないジレンマに苦しんでいました。世の中には音楽的な絵画も存在するわけですから自身の指向を変えれば済むことなのですが、なかなかそうはいきません。絵は頭で描くわけではなく、身体全体の感覚で描くものなので、今まで生きてきた人生を丸ごと変えなければ絵も変わらないのです。苦悩そのものをキャンバスに塗り込んでいかなければならない絵を描くという作業に、疲れ果てていました。

 いつ頃からでしょうか、その思いが変わってきたのは。最近ではこう思っているのです。絵画を成立させるものも美という透明なものであって、テーマやモチーフを超えた造形的な行為の痕跡なのだと。眼で味わう喜び。それさえ実現できればギャップは埋まります。同じ地平にある異なるアプローチなのだと納得がいくのです。音楽に対する羨望の思いはなくなりました。やっと純粋に音楽を楽しめるようになったのかもしれません。同じように、絵に対する強い思い込みも薄れつつあります。少しは楽しみながら制作が出来るようになるのでしょうか。是非そうありたいものだと願っています。

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