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初めての出会い

 私が越した所は灘区大石。先生のアトリエの隣りの区です。すぐにでも先生に絵を見てもらうつもりだったんですが、膨らみすぎた先生への思いのためでしょうね、実際に先生の家を訪問する勇気がなかなか持てないまま数ヶ月が経ってしまいました。

 そんな折、神戸大丸で先生の素描展が開かれることとなり、画集の同時出版も予定されていました。先生に会えればいいな、などと妄想しながら会場を訪れましたが、世の中そんなに甘くはなく、がっかりしながら画集だけでも買おうとしたんです。そしたら受付けの女の人が「もう少ししたら先生が見えられますので、サインしてもらってくださ〜い」などと、とんでもないことを言うではありませんか。え、サインしてもらう?会えるってこと?うそ! 天にも昇る気持ちとはこのことです。

 待つこと30分、来ました、先生です。自画像そのままの。受付嬢の説明を受けた先生の前に画集を持っていくと、にこやかな顔で「ありがとうね」と言ったんです。あ、あの鴨居玲がですよ。この私に..。そこで私も、あらん限りの勇気を振り絞ってこれまでのいきさつを話しました。声が震えていたかもしれません。でも、とても気難しい人だと思っていたので、期待はしていなかったんです。こんな馬鹿な男がいると知ってもらうだけでもいいやと、ほんとにそう思っていました。ところが、その時返って来た言葉を聞いて驚きました。

「今度私に絵を見せてもらえますか?」
 やったー!

 この日から、亡くなるまでの7年に亙るお付き合いが始まったのです。


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