p-essay-title.jpg


to painting menu
エイプリルフール

 面白そうなことは見逃さない。人の迷惑省みず。これが基本ですね。私以外にも先生の魔の手にかかった人は大勢いるはずですが、その中の一つ。

 これはもうずいぶん前、先生の若かりし頃の逸話なのですが、時は4月1日、エイプリルフールの日。
 若い絵描きの卵や俳優の卵、その他、才能と暇を持てあました卵達がゴロゴロと転がっていたのが『蛸の壷』というお店。ここの主人は面倒見のいい話好きの御仁で天衣無縫。この主人を陰から支え、卵達の悩みを聞き、親身になって世話してくれていたのが『お母さん』ことK子夫人でした。裏も表もない、とても純な心の持ち主なので人の話をすぐ信用してしまう。微塵も疑ったりしない。ほらほら、先生の餌食でしょ?

 血相を変えてお店に飛び込んできた鴨居玲はこう叫びます。「おっちゃんが倒れたらしい!」「えええっ」「京都の病院に担ぎ込まれたらしいから、今すぐタクシーで行こう」「京都て..」「さあさあ、急がないと、ほらほら」そうして京都へと向かうタクシーの中で、お母さんは気が気ではありませんし、鴨居玲は楽しくて仕方がありません。やがてもう少しで京都という所まで来てようやく
「お母さん、今日は何の日ですか」
「な、何の日て、4月..1日やろ」
「4月1日は?」
「....、あー、エイプリルフールや!なんや、だましはったんかいなー」

 思えばひどい話です。お母さんにとっては生きた心地がしなかったでしょうに。でもその後、お詫びに京都で美味しいものをご馳走してあげた、とか。今でもお母さんは目を細めながら楽しそうにその思い出を語ります。


inserted by FC2 system