p-essay-title.jpg


to painting menu
頼まれた仕事

 その翌日(あれ?続いてる変だな..)、先生からお呼びがかかりました。前日の訪問は皆でタクシーに乗って行ったので意識しなかったのですが、一人で街から歩いてみると結構な坂道で、到着した頃には息が上がっていました。玄関の呼び鈴を押し、チータの手荒い歓迎を受けたあと部屋に通されコーヒーをご馳走になりました。頑張りなさいという励ましのお話が主だったと記憶していますが、それとは別にチータとの付き合い方の説明と、ある仕事の依頼がありました。

 チータは、先生がフランスにいる時から飼っているセントバーナードで体重が80数kgもあるのですが、とても気の優しいおとなしい犬でした。とはいえ、立ち上がると私の背丈を越えるほどですから、それまで犬を飼ったことのない私にとっては脅威でした。玄関を入るたびに押し倒されそうになるんですからね。このチータを先生は心から愛していましたから、私にも彼と仲良くなれるように付き合い方を教えてくれたんです。人間と同じように家の中を自由に動き回りますから、時々よだれを拭いてやったり、物欲しげな顔をした時には蛇口から水を出してやったりして、私も仲間だと認めてもらう必要があったんです。
 仕事というのは庭の手入れや家のまわりの掃除でした。なんだ、絵とは関係ないじゃないかと思う人もいるでしょうが、私はそうは思いませんでした。先生の役に立つ、それだけでとても幸せでしたから。週に一度来てくれるように頼まれ、もちろん喜んで引き受けました。

 今からして思えば、これは先生の優しい配慮なのです。絵を見てもらうといっても、一度見てもらえば次のチャンスはいつになるかわかりません。こうして週一度通うことで私は継続して先生に接することができるわけですし、先生の話や仕事ぶりからいろんな事が学べるわけです。チータの世話の仕方を教えてくれたことも、これからずっとチータと、つまりは鴨居玲と付き合うんだぞという先生の意思表示だったのだと思っています。


inserted by FC2 system