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あこがれ

 先生の絵を初めて見たのは大学の3年生の時でしたでしょうか、本物ではなく本の中でしたが。それも白黒の粗末な図版だったと記憶しています。しかし鴨居玲という絵描きの凄さを感じるにはそれで充分でした。こんなに重厚でしかも繊細な絵を描く日本人がいるとはそれまで思ってもみませんでした。それからは本屋という本屋のあらゆる美術書、雑誌、とにかく鴨居玲が取り上げられている本を探しまくりました。いくつかのカラー図版とインタビュー記事を見つけた時は狂喜乱舞しましたね。

 やがて東京の日動画廊での個展の記事を見つけ飛んでいきました。いやぁ、本物の作品がずらりと並んだ画廊に入った時には涙が出そうでしたよ。2日間どっぷりと先生の絵の中に浸り、決めたんです。この人に絵を見てもらいたい、師事したいってね。僕にはこの人しかいないと思いました。ところがこの時、先生はまだパリに住んでいました。その日暮らしの貧乏学生だった私には、いくらあこがれの人とはいえヨーロッパまでいく金も勇気もありませんでしたから諦めざるを得ませんでした。

 それから1年、悶々とした日を送っていた私の目にとんでもない記事が飛び込んできたんです。雑誌の特集でしたが、先生の住所が神戸市東灘区になっているんです。信じられませんでした。永くボリビアからスペインと放浪の旅を続けていた人でしたので、日本に帰ってくるなんて思ってもいませんでしたから。このチャンスを逃しては又いつ放浪の旅に出て行くかもしれません。次の日から大急ぎで神戸への引っ越しの準備を進め、新しい神戸の住人となったのは78年の春でした。


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